テーブルトークRPG『クトゥルフ神話TRPG』とニコニコリプレイ動画の隆盛

テーブルトークRPG『クトゥルフ神話TRPG』とニコニコリプレイ動画の隆盛

クトゥルフの呼び声のニコニコ動画リプレイ(リプレイ風動画)については今でこそ人気テーマで動画も沢山あるが、『クトゥルフ神話TRPG』自体がそこまで人気タイトルになるとは思っていなかった。
ついこの間もニコニコ本社ちゃんねるで『はじめてのクトゥルフ神話ワークショップ~今日から始める狂信者への道~ in ニコニコ本社 』が放送されたり、とその人気は衰えるところを知らない。

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テーブルトークRPGのクトゥルフの呼び声

元々筆者はテーブルトークRPG(TRPG)をプレイしていたので、クトゥルフ神話は動画が流行する前に知っていた。
ゲーム名も、クトゥルフ神話TRPGではなくまだ『クトゥルフの呼び声(Call of CTHULHU)』だった頃だ。
高校くらいの時に当時のルールブック(ログインテーブルトークから出ているものよりも前のバージョン)を買って、原作のHPラヴクラフトも何冊か買って読み、筆者がマスターとして初めて仲間内でプレイをし始めた。

自分たちは、中学くらいから常時4-5人の固定メンバーでプレイしていて、たまにイレギュラーに入る人を除くと、気の知れたメンバーだった。そのメンバーのほぼ全員がマスターを出来たので、全員が違うシステム(メンバーAがソード・ワールドのマスターを担当、メンバーBがロードス島戦記と指輪物語のマスターを担当、筆者がクトゥルフの呼び声、ストームブリンガー、ウォーハンマーRPGのマスターを担当、メンバーDがダンジョンズ・アンド・ドラゴンズのマスターを担当といった感じ)を購入してマスタリングを持ち回りで担当していた。この方がいろいろなシステムを遊べるからだ。
セッションという言葉自体も当時は使っておらず、「次のマスター」とかそういう感じで言っていた。マスターとは通常、ゲームマスターで、システムによって名称は異なるが、役割は大体同じで、シナリオを作ってゲームを進行する役割で、プレイヤーよりは負担が大きい。シナリオは購入したサプリメントから持ってくる人や、自作して長大なキャンペーンをする人と様々だった。

なぜクトゥルフの呼び声をやり始めたかは、グループSNEの『ラプラスの魔』のゲームや小説が流行っていたからだろう。後は、よく行く友人の家にラヴクラフトの本があって読んで感化されたせいもあるだろう。

クトゥルフの呼び声は今でこそ流行っているが、当時はゲームでもマイナーな部類だった。ホラー自体はゲームブックの『地獄の館』であったり、当時も人気のあるジャンルだったと思うが、ケイオシアム社出版の『クトゥルフの呼び声』や『ストームブリンガー』はどちらかというとマイナーだった。

当時TPRGを特集していたウォーロック、タクティクスやRPGマガジンでもクトゥルフの呼び声はそれほどフィーチャーされていなかった。『ストームブリンガー』はグループSNEの北川直氏のシナリオやリプレイが掲載されて、ベーシックRPGとしても筆者はむしろ『ストームブリンガー』のほうが好きだった。余談だが北川氏のシナリオなどに掲載されていた韮沢靖氏のイラストは素晴らしかった。

グループSNEも『ラプラスの魔』のリリース後は、クトゥルフよりも自分たちが翻訳出版を手掛けた『ウォーハンマーRPG』のシナリオやリプレイ、小説(ドラッケンフェルズ等)に注力していた。
筆者もシステムや世界観的にはウォーハンマーやストームブリンガーの方が好きである。なので、なお更クトゥルフが動画リプレイで隆盛したことに驚いている。

プレイした人は知っていると思うが、クトゥルフの呼び声はそれほどプレイしやすい(マスタリングしやすい)システムではない。

サイズ高い奴はガタイがいいとか、INTが高いとアイデアマンだが恐怖の根源に気づきやすいとか、大卒や院卒で教育が高いとスキルが高くなるとか、キャラクター作成はイメージしやすいが、戦闘システムが若干煩雑な面は否めない。
更に、一番大きいのは、SAN(サニティ。このゲームの肝である正気度)が設定されていて、一時的狂気や真の狂気になると発狂するところだ。
この辺りがゲーム的に余り落とし込められていなくて、マスタリングが難しい。

リプレイ動画とリプレイ風動画は、同じものだと考えられているが、全く違う。
リプレイ動画はリプレイをテープ起こしなどをして忠実に動画化したものだが、リプレイ風動画はあたかもリプレイしているように動画の登場人物やキャラクターが振舞うが、実際にはプレイされておらず、投稿者の創作なのがリプレイ風動画だ。
リプレイ動画は実際にプレイしてテープ起こししてそこから動画を作るなど手間がかかるが、リプレイ風動画は創作なので自分でシナリオを作って動画を作れば、TRPGのセッションをする必要はない。セッションすることはないので、一番厄介なプレイヤーを集める必要がないため、今流行っているのはリプレイ風動画だと思う。

リプレイ風動画には存在しない要素で、実際のセッションで問題になるのは、プレイヤーのモチベーションだ。
一時的狂気や真の狂気でキャラクターが発狂すると、場は盛り上がるかもしれないが、キャラクターは行動不能になり、復帰するまでその間、セッション中は漫画を読んだり、ゲーム機でゲームをして時間を潰すことになる。

キャラクターが復帰することが難しい場合、別のキャラクターを作って即参加させることもよくある。これはプレイヤーのモチベーションがダウンするとその空気がセッションしている他のプレイヤーにも蔓延してセッションに悪い影響を及ぼすからだ。

TRPGというのは基本的にゲームを一時的に外れたプレイヤーに救済措置は用意されていない。元々クトゥルフの呼び声自体もキャラクターが発狂する様を見て笑いながらプレイするジョークゲーのような一面もあると思う。
ただゲームを外されてしまったプレイヤーはすることなく手持ち無沙汰に陥るので、周りでプレイヤーが大笑いしながらプレイしているのに疎外感を感じてしまう。

TRPGはゲームによるが割りと死にやすく、死んだら即作り直しで参加出来るが、クトゥルフの場合は一時的発狂があるので、参加のタイミングが微妙に難しくなってしまう。

クトゥルフの呼び声の動画人気タイトルについて

次は、クトゥルフの呼び声の動画人気タイトルについて挙げていこう。

なんとかかんとか氏作『ゆっくり達のクトゥルフの呼び声TRPG』

最初は、2011年になんとかかんとか氏が投稿した『ゆっくりたちのクトゥルフの呼び声TRPG』だろう。
リプレイ風動画だが、めちゃくちゃなキャラクター設定、戦闘の爆裂的なダメージ、常軌を逸したプレイの数々など、突き抜けた面白さを持つ動画でこれが火付け役になりクトゥルフの呼び声が知られ始めたように思う。残念ながら途中で打ち切りになり、なんとかかんとか氏は別のタイトルで動画製作を多数続けていくことになったがそちらも面白い。

ゆっくりたちのクトゥルフの呼び声TRPG

朝霧カフカ氏作『ゆっくり妖夢と本当はこわいクトゥルフ神話』

ゆっくり妖夢と本当はこわいクトゥルフ神話

クトゥルフ神話を題材にした動画タイトルが増えていく中、人気を決定的にしたのが朝霧カフカ氏(旧PN名:朝霧かっちゃんで投稿)の『ゆっくり妖夢と本当はこわいクトゥルフ神話』だろう。シナリオは秀逸でここまでクトゥルフを題材に面白く動画を作れるということを証明した衝撃的な作品。この動画シリーズは長いが、筆者は2回は見ている。
主要登場人物に東方のゆっくりキャラクターを使っているのは他動画と同じだが、それ以外にも『デスノート』(L)や『孤独のグルメ』(井之頭五郎)、『BLACK LAGOON』(張維新)など版権ものキャラクターを使っていた。そのため、版権問題があり朝霧カフカ氏はニコニコ動画の投稿を全て削除してしまう。そして版権を回避する形でキャラクターの設定や外見を変更した『水瀬陽夢と本当はこわいクトゥルフ神話』を発表して物議を醸した。
その後、朝霧カフカ氏は『文豪ストレイドッグス』で商業デビューすることになる。

接続設定氏作の初めてのクトゥルフと大正九頭竜シリーズ

初めてのクトゥルフ

接続設定氏が投稿した初心者向け動画で非常に丁寧な解説と手書きのイラストで味のある動画。だが、これはまだ序章に過ぎなかった。

大正九頭竜

接続設定氏の二つ目のシリーズで、真の恐怖はこのタイトルにある。演出が素晴らしく夜一人で見るときは注意すべきだろう。

クトゥルフの呼び声のリプレイ風動画が流行った理由

クトゥルフの呼び声のリプレイ風動画が流行った理由については、クトゥルフと神話宇宙の体系という題材の面白さもあるだろうが、むしろこうした傑作動画が黎明期に数々誕生して、自分も作りたいというユーザーが増えたからだと思う。これは別の機会に改めて考えてみたい。

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